「では、先生の過去を見せてあげよう」
神と名乗る翁は、私の額に手をかざした。
映像が見えたが、それは自分自身が見ているものではなく、誰かを通して見ているような気がした。
目の前には家族の団欒が映し出され、視点の人物はその一人であるようだ。裕福な家庭のようで、食卓に入りきらないくらいの食事が置かれている。
ふと、食事を落としてしまった。その人物の母は笑顔で皿や食べ物を掃除している。どうしてか、はっきりとしないもやもやした感情が私を包んだ。これは人物の感情が反映されているのかもしれない。
次の映像も食卓であった。人物は母や父の姿を交互に見ている。何をしてるんだろう。そう思った矢先、もやもやした感情の正体に気がついた。
父母の表情が、前の映像と全く同じだったからだ。寸分違わぬ微笑み。それは子供心におかしいことに思える。
その人物は立ち上がり、持っているスプーンを振り上げて地面に叩きつけた。すると母はあのときと同じ表情で片付け始めた。
それが、先生の、絶望の日々の始まりだった。
つぎに、ぼんやりと、オレンジの景色が見える。そこは私が住んでいる、この丘だった。
2/21/2024, 1:13:32 AM