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『エイプリルフール』

 これは嘘、あれも嘘、これは本当……かもしれない。
 春休みの図書館で、私は調べものに没頭している。
 「全部嘘に決まってるじゃん」そう言って笑う同級生たちは、あかんべーして追い払った。
 探しているのは、未確認生命体の情報だ。見てみたい。一種類くらいは実在してもいいのではないかと私は思う。
 ツチノコでもネッシーでも、ケセランなんとかでもいい。宇宙人だったら大当たり。
 分厚い郷土史の資料やら縮刷版の新聞から、怪しげなタイトルの怪奇本までを塔のように積み上げて、それらしい記述を一心不乱にメモしていく。
 なんでこんなことをしているかって、そりゃあ青春のど真ん中をロマンに捧げたいからだ。埋蔵金探しと迷ったのはナイショである。

 「ねぇ、宇宙人探してるの?」
 突然上から降ってきた声に、本の塔に囲まれて机に噛り付いていた私はギョッとして顔を上げる。
 にこやかな笑みを浮かべた同年代くらいの少年が、私の手元を覗き込んでいた。私はその容姿に意識を奪われ、言葉を詰まらせる。今まで見たどんな人間よりも美しかったのだ。
 「僕が宇宙人だよ」
 告げられた二言目に私は堪らず「え!」と大きな声を上げた。
 当然のように周囲の視線を集めた私は、積み上げられた本の壁の裏に隠れるように身を縮める。
 こんなの考えるまでもなく嘘に決まっているのに。輝くように美しい人間を前にして、正常な思考を失っていたようだ。
「ごめん、信じた?嘘だよ。今日ってエイプリルフールなんでしょう?」
 ポカンとした私は毒気を抜かれ、笑いながら「知らない人に突然噓八百をぶちまけるのがエイプリルフールだとは思わなかった」と率直に告げた。
 すると彼はこの世のものとは思えないほど美しい顔で「それは知らなかったよ」と明らかに落胆する。
 その時、宝石のように美しい瞳を、半透明の膜のようなものが一瞬覆ったように見えた。そう、カエルの瞬膜のような。
 いや、潤んだ瞳に光が反射しただけだ、気のせいだろう――。そう思ったのだ、その時は。

 探し物がもう見つかっている事に私が気が付くまで、あと数ヶ月。

4/1/2023, 2:40:10 PM