ミキミヤ

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不意に視界が歪んで、私は、慌てて立ち止まり、顔を上向ける。
目に飛び込んできた満月はくっきりと眩しいくらいに存在を主張していたけれど、次第に歪んでぼやけてハッキリしなくなる。眉を顰め、目元に力を入れて耐えていたけれど、遂にポツリと頬を雫が伝って、少しだけ視界がクリアになった。一度目から溢れてしまえば、あとは簡単で、次から次へと雫が頬を落ちていく。

泣きたくなんかないのに。

好きだった人が、今日会社を辞めていった。
結婚して、相手の実家に近いところへ引っ越すのだと言う。
私は笑顔であの人を見送って、我ながら上手くお祝いできたと思っていたのに、独りになった途端にこれだ。

何で涙なんて出るんだろう。

あの人は幸せそうだったじゃないか。
相手だってすごく良い人そうで、きっとこれからも幸せでいられる。
あの人を幸せにするのは私じゃなかった、ただそれだけの話。
第一、私は1年も前に『恋人がいるから』って振られたじゃないか。それでもう諦めたはずじゃないか。

どんなに理屈を並べても、涙は全然止まってくれない。
私はただその場で、頬を伝っていく雫はそのままに、感情の波が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。

3/30/2025, 8:01:14 AM