朝倉 ねり

Open App

『君が隠した鍵』

「ねぇ、あなた。」
なんでもない日曜日の午後。
『夫婦で一緒に何かする』とだけ決めているその日に、妻が映画を見ながらポツリと言った。
「映画って、感情移入し過ぎちゃうから、アタシ嫌いだわ。」
俺たちが高校生だったくらいの年に流行っていたロマンス映画を見ながら言うセリフじゃないだろう、と思う。
「嫌いなら、見なくていいじゃないか。そもそもこれはお前が見たいって言ったんだろう?」
「……それとこれとは違うの。」
何が違うと言うのだろう?妻の言うことは時々難しい。

その映画は、ありきたりの恋愛映画だった。
男女が一夜の恋に燃え上がって、でも結局日常に戻らざるを得なくなる、といったふうのいわゆる悲恋。
妻はもう何度もこの映画を見ているはずなのに、また性懲りも無く泣いていた。
「……もう、やだ。見たくない。」
何度もそう言うのに、結局見てしまう。そして、また泣く。
「映画って、入り込ませるのに特化しているのに、入り込んだ私は何も出来ないのがとてももどかしいの。アドバイスして、すれ違いを直してやりたくなる。」
鼻を啜りながら、涙声で妻が言った。
「……それは、作り手冥利に尽きるってやつじゃないのか。お前がそんなに入り込めるってんだから。」
「うん。……でも、映画には心がないの。監督の心があって、俳優達の心が詰まっている、心でできた1つの集大成なのに、映画には心がないの。」
出来上がったのは、ただのモノだから。
「それが寂しいの。アタシは映画の心を癒したい。映画の心に入り込んで、一緒に考えたいのに、映画には心がないのよ。」
正直、妻の言っていることは半分も理解できなかった。

「俺としては、今のお前の心に入る鍵を探したい気分だよ。お前になりきれば、言いたいことも理解できるのかね。」
「あなたはあなただから良いのに。アタシになってしまったら魅力が半減だわ。だから鍵は隠しておくわね。」
そう言って、妻は泣いて赤くした目元を緩ませて笑った。





​───────​───────​───────​───────​──────

あまりにも駄作ですね。

11/24/2025, 2:23:57 PM