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ありがとう、ごめんね


ブックカバーを外すと現れたのは彼の昔の日記だった。
そういえば昔、日記をつけるのが趣味だと聞いたことがある。

もう時効だろうしいいよね、とページをめくると紫色の紙切れがひらりと舞い落ちた。

拾い上げるとそれはすみれの切り絵だった。
遠い昔、わたしが試しに作ってそのまま放りだしていたものだ。

少し黄ばんだページには、妻は凝り性だが飽きっぽいからこれはここに保管しておく、と書き留めてあった。

ありがとう、ずっと持っててくれたんだね。

わたしあれから色んな趣味に手を出して、結局みんなすぐに飽きちゃったけど、あなたのことは飽きなかったよ。

すっかりしわの増えた自分の手に載せた切り絵を見おろしながらつぶやいた。

泣かないって約束したのに、ごめんね。

12/8/2023, 11:14:15 AM