好きだ、と伝えた日から、何故か生徒に避けられている。いつもの好き好き攻撃もないし、放課後教室に居残ることもしない。わざと受けていた補習も、ここ最近は文句なしの100点ばかり取るから開かれていない。
間違いない。避けられている。
「いた」
「ゲ」
ようやく彼を捕まえたのは、あの日から二週間経った日の放課後だった。
俺の声を拾うなり、彼は背中を向けて走りだそうとする。その背中のシャツを引っ張って引き止める。
「今、ゲって言った?」
「いっ、言ってない」
「なんで避けるの?」
問いかければ、彼の目が泳ぐ。
「だって……先生、迷惑そうだったじゃん……」
「は?」
「苦しそうに言ったじゃん、好きって」
あーーー、と心の中の俺が叫んだ。なるほど、俺の表情で誤解したのか。なるほど、なるほど。
「お前は……なんで普段あんだけ好き好き言っておいて、いざ言われたら引くんだよ……別に迷惑じゃないって」
「だって」
「迷惑そうに見えたなら謝るよ。でも、もう逃げないから。ちゃんと向き合うって決めたから」
まあ、世間様へのあれやそれ。面倒事は尽きないだろうから、しばらくは二人だけの秘密になるだろうけど。とは、今は言わないでおこう。やっぱり嫌なんじゃんって思われたら嫌だし。
不安そうに俺を見上げながら、「本当に……? 本当に好き……?」と言ってくる彼に、俺は微笑んだ。
「本当に好き。だから、そんなに泣きそうな顔するなよ」
そう言ってやれば、ようやく彼は満面の笑みを浮かべた。
5/4/2024, 2:02:11 AM