背の高いその人を、僕はいつも見上げている。
室内でも外でも、その人はいつも光を背負っていて、見上げる僕は一度としてその顔をまともに見た事がない。
背の低い僕からは逆光になっていて、その人の顔はいつも真っ黒だからだ。
誰もが言う。
彼は温厚で、いつもにこやかに笑っているよ。
上に立つ者だからって威張ったりしないし、気さくに話しかけてくれる。
無茶な指示をされたことなんて一度も無い。
みんなあんな上司なら有難いのに。
僕も最初はそう思っていた。
逆光になって見えないその人の顔は、きっと誰もが言うようににこやかに笑っているのだろう。そう思っていた、から·····。
その日は大雨で、演習も行事も何もかも順延になって、みんな思い思いに建物の中で過ごしていた。
外では時折稲光が光って薄暗い室内を瞬間的に眩く照らす。
僕はその人と同じ部屋で、書類仕事を手伝っている。
「有難うね、手伝ってくれて」
「いえ」
短い会話を数度交わして、黙々と仕事をする。
そして何度目かの稲光。
「――」
いつもは逆光になって見えないその人の、窓ガラスが照らす顔。
そこにあるのは、〝虚無〟だった。
END
「逆光」
1/24/2026, 11:48:24 PM