ガラゴロと台所のシンクで何かが転がしている音がした。
様子を見に行くと、母がかき氷機を洗っているところだった。
うちのは巷でよくあるペンギン型ではなく、私がねだって買ってもらったヒーローのキャラクターのもの。
「なにやってるの?」
見れば分かることを問えば、
「かき氷機洗ってるの」
と、そのまま返ってきた。
「暑くなってきたからね」
続く言葉には首肯しかない。ここ最近の気温は梅雨が明けたばかりだと言うのに、真夏日の気温をゆうに超えることも多い。
部活用の水筒に氷を入れることも増えてきた日々だった。
洗って水切りかごに逆さまに置かれているヒーローを見ていると、私の口はもうどんどん“それ”になってきた。
「ねぇ、もう使っていい?」
「自分で片付けするならいいわよ」
水滴だらけのヒーローをふきんで拭き、頭頂部に氷をガラガラと入れた。
この時のコツは、フタが締まりきらないくらいいっぱいに入れないこと。見極めが大事なのである。
せっかくならと気分も涼しげにするために磨りガラスのような器を手に取り、その中にガリガリと氷を削って氷山を作った。
取っ手を回して氷を削る作業は独特の快感がある。
削り終えると、私の行動を見越していたかのように冷蔵庫に未開封のかき氷シロップがあったので、早速それを開けて氷山に頂上からかけた。
赤いいちごシロップ。
(実はシロップはみんな同じ味だというけれど、やっぱり私はいちごが好き)
そうしてかき氷が出来上がると、片付けはあととばかりにシンクにかき氷機を置いて、溶けてしまう前にとテーブルへ持っていき手を合わせた。
デザート用の少し細身のスプーンで赤い氷山の先を掬って口へ運ぶ。
「んー」
夏が来た味がした。
/6/29『夏の気配』
6/29/2025, 9:23:38 AM