久しく曇らぬ硝子の奥に、亡霊の君を見た
ただ濡れて立ち尽くす案山子のように
途方に暮れた瞳は、悉くを飲み込む夜の色にも似て
伸ばした手は懐かしく凍えて、けれど声は届かず
透き通る背が秋霖にすっかり溶けてしまうまで
白い手は揺れて震えて彷徨った
歩み寄るには遅かった、許しを得るには驕りが過ぎた
君は何を伝えようとしたのか
二度と答は訪わない、それが私の罰ならば
幻を見ていたのだろうか
それは林檎の香りをした白昼夢、惑うも啜る甘い汁
幾星霜を遡り希ったとして、きっと沈黙は変わらない
蒼天を傲慢と罵る瞳は曇ったまま
擦っても瞑っても頑なに澄み渡らない世界へ唾を吐く
これが私の罪、永劫に続く後悔の始まり
矛先を失くした愛が膨らむばかり
弾けて消滅する、終末という名の救済すら能わずに
捧げた理想は腐り果てて行く
癒えない傷ごと苛むように
降り頻る雨は涙だろうか
君か、あるいは誰かの悲しみを継ぐ雫
この体を濡らすのに、抱き締めることは叶わない
かつて繋いだ心、最後まで離別を拒んだ成れの果て
贖いの旅路にて、忘却を禁ずる記憶の欠片
私の眠りを妨げることもせず
あまつさえ逃避を幇助するような、残酷な優しさ
直視するそれは余りに眩しく温かく
私が追放したくせに今更何を伝えられるか
沈む思考は海にも似て、そして宇宙は底にある
薄紅の唇が私の名を告げる日は来ない
君は振り返らずに落ちて行く
瞬く光を携えて、一心不乱に朽ちて行く
願いたくなるけれど、懲りずに手を伸ばすけれど
実らせてはならないと理解して果てる
ただ美しいだけの命無き色彩、誰も喰まぬ毒の徒花
愛した君がいつか滅びてしまっても
私だけは憶えているから
遠い遠い未来までも、独りになっても抱えて眠ろう
(雨と君)
9/7/2025, 3:29:03 PM