四椛 睡

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 混み合う駅のホーム。前を歩く女子高生のスカートから何かが落ちた。
 小さくて光る何かだ。ぼくは何の気なしに拾ってしまう。一瞬「小銭かも」と思ったけれど、それにしては小さ過ぎる。実際、小指の先ほどの大きさしかなかった。角の丸いトゲトゲが沢山生えている奇妙な何か。金平糖みたいだ、と思った。自ら発光する金平糖。我ながら食欲の失せる表現だが、しかしこれほど的確な言葉も見つからない。

 女子高生のスカートから何故、光る金平糖が落ちたのか。
 その謎を解き明かす術を、ぼくは持っていない。彼女を呼び止め「落ちましたよ」と返す勇気もなかった。如何してか『女子高生のスカートから落ちてきたものを拾った』事実に羞恥と罪悪感を抱いている。変態だ何だと罵られるかもしれない——そんな被害妄想が脳内をぐるぐる廻る。

 女子高生は毎日、光る金平糖を落とした。ひらひらと揺れる裾から(正確には美しい脚が生えている暗闇から)ぽろぽろと溢す。ぽろぽろ。
 ぼくは毎日、それを拾った。誤解なきよう注釈を付け加えると、ぼくは彼女のストーカーではない。同じ電車に乗り合わせて同じ駅で下車するから、そういう感じになっているだけだ。金平糖の色は微妙に異なる。白、ピンク、青、黄色、黄緑色、紫——他にもあるけれど、どれも淡い色合いだ。
 ある日、興味本位で口に入れてみた。
 すぐに吐き出した。
 見た目は金平糖だけれど、食べられるものじゃない。まるで小石を下の上で転がしたような不快感。ぼくは顔を顰める。これは金平糖ではない。石。輝くトゲトゲの小石。

「星だ」

 思わず溢れた呟きが、胸にすとんと落ちる。


 女子高生のスカートから毎日、星が溢れている。ぽろぽろ。ぽろぽろ。
 ぼくは毎日、それを拾い上げる。
 拾った星は小洒落た瓶に入れて保管している。100円ショップで購入したものだ。この瓶いっぱいに星が溜まったらいよいよ、彼女に声をかけようと思う。

3/16/2024, 5:54:04 AM