「人は死んだらどうなると思う?」
予備校の帰り、人気のない路地で、突然きみが立ち止まり、問いかけてくる。
「え、どうなるって……天国に行くんじゃないの?」
唐突な問いに面食らいながら、立ち止まりわたしは答えた。
きみの問いは続く。
「じゃあ、天国ってどこにあると思う?」
「うーん、雲の上……とかかなあ?」
わたしが答える。
「でも、雲の上に天国を見つけた人は誰もいないよ。飛行機とかロケットとか、雲の上を見る手段はいくらでもあるのに」
「た、たしかに。じゃ、どこだろ……?」
わたしはすっかり困ってしまった。
「人はなんで、実在を証明できないものを希望にできるんだろう」
きみが空を見上げて問う。わたしにじゃなく、世界に問うているような響きだった。
「私は、今生きてるこの場所に希望を見て、生きていきたい」
きみが雲の奥を睨んで言った。ひどく鋭い眼差しだった。まるで、世界へ宣戦布告しているようだ。
きみに何があってこんな話になったのか、わたしにはわからない。でも、きっと今この瞬間、これを声にして世界に放つことが、きみにとってすごく重要なことだったことは、何となくわかった。
わたしは静かに頷き、同じように空を見上げてみる。
そこには、灰色の雲が広がっているだけだった。
10/15/2024, 1:34:52 PM