「夏に溶けた想い」 作 余白
「夏は嫌い」
そう言った僕に、
君が少し困ったような笑顔を見せた。
自転車を漕ぐ二人の頬をサラサラと風が撫でていく。
「一緒に登校しよう」
はじめての君からの誘いに、僕の胸は高鳴っていた。
好きだ。と
いつまで経っても言ってくれない君に、
密かに期待をよせつづけている。
そんな君に恋人ができる度、毎度僕は落胆する。
期待ばかりをさせるのが得意な君は、おそらく悪い奴なのだろう。
きっと肝心な事は言えないタイプなんだ。
好きでもないやつと付き合うのは、僕の気を引きたいからなんだ。
そんな都合のいい解釈が次々と浮かぶのも、
君に惚れ込んでいるからに違いない。
醜い焦燥心を悟られまいと、今日も涼しい顔で君に会う。
君はとても頭がいい。
僕が離れようとするタイミングで、ちょうどよく飴を持ってくる。なかなか僕の心を手離してくれないのだ。
「どうして誘ってくれたの?」
頭の中で何度も質問をするのに、口からは一向に出ていってくれない。
いつの時代も口下手な男は嫌われる、わかっているのには器用にはなれない。
二人、自転車を漕ぐ。
スイスイ、と音を立てながら。
生い茂る木々の葉が青々としている。
夏の日差しをうけてきらきら揺らめいて
頭がくらくらするほどに、眩しい。
このまま夏が終わるのかな。
好きだと言ったら、壊れるのだろうか。
君は僕を、どう思ってる?
その一言が怖くて、一年半も経ってしまった。
夏が好きな君
僕が好きな君
僕が君に言った
「夏は嫌い」
瞬間、照りつける日差しの下の君の目に影が生まれた気がした。
爽やかな風に押し出され、二つの自転車は坂を上がる。
僕らはきっと、これからもすれ違うのだろう。
一緒にいても傷つ合う運命なのだ。
好きだという感情だけでしか繋がることのできなかった僕らの結末が見えた、気がした。
夏の暑さで、僕の想いは溶けていく。
6/28/2024, 3:21:38 PM