明永 弓月

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 あなたを好きだった記憶が頭にこびりついて離れない。もう、あなたと会うことなんてないのに。街ですれ違ってもわたしはあなたに気付けないのに。あなたはきっとわたしのことなど思い出しもしないのに。

 あなたを好きだった記憶。
 あなたと話したこと。内容をすべては流石に覚えてはいられなかったけれど、あなたと話しているときのわたしの心臓の音。あなたを目で追っていたわたしのこと。
 あのとき行動すれば良かった、別の選択肢だとどうだったんだろう。あなたの顔すら朧げなのに、そんなことばかり浮かんでくる。
 いまさら意味を持たないことなどわたしも理解している。

 いちばん綺麗な恋愛感情だった。
 単純に好きだった。それゆえに当時のわたしは幾度となく嫉妬に駆られた。当然、純粋に好きだという気持ちだけではなかった。
 ただ、気が付いたら落ちていた恋だった。いいな、と思っていた。そのあと偶然あなたと話すようになった。いつしかわたしはあなたを好きになっていた。好きになろうとしたわけではなかった。あなたと話す子を羨むわたしによって気付かされた。
 わたしにとって、純粋な恋で、唯一勝手に生まれた恋心だった。

 いつしか心は歪になってしまった。わたしの心は純粋さを失っていた。わたしの心情を、わたしの理性が作り出していた。
 わたしの好きは、どこへ行ってしまったのか。それをどこへ追いやってしまったのか。
 わたしはそれを取り戻すことができるのだろうか。


 だから、今なお、あの頃の純粋な好きの記憶を捨てられずにいる。

8/17/2024, 1:51:04 PM