たやは

Open App

秘密の標本


コンコン。

「あの〜。私たち、こちらで奥さまからモデルをお願いされたものですが〜。」

「はい。伺っております。今開けます」

大きな門が開き、中から白髪頭の初老の女性が出てきてた。この家のお手伝いさんだ。

先日、私と友達の幸子は学校の帰り道でこちらの奥さまに声をかけられた。奥さまは大きな外国の車を私たちの横に停め、窓を開けて声をかけてくださったのだ。

「あなたたち。可愛らしいわね。良かったらモデルをやってくださらない。」

「え?」
「私たちですか?」

「あ、あー。急にごめんなさい。驚かせてしまったわね。私は丘の上の屋敷に住んでいる山下といいます。」

「丘の上のお屋敷…」
「男爵さまのお屋敷よね。」

「そうそう。それでね。私は絵描きでもあるのよ。良かったらそのモデルをお二人にお願いしたいの。少しだけれどお給金も出すわ。」

優しい笑顔で男爵家の奥さまは私たちをモデルにと誘われた。

「お給金も出るんですか。」
「ちょっと幸子。失礼よ。すみません。奥さま。」

「いいえ。親御さんにも相談してからのほうがいいでしょう。その気になったら、いつでも屋敷の方へ行らしてね。」

車はゆっくりと私たちから離れていった。私たちがモデルとか信じられないけど、男爵家の奥さまのお誘いを断ることはできない。男爵さまは、町で1番偉いひとかた。お母さんたちに相談して行くと決めないとたらない。

「女学校の生徒さんだったわね。本当に可愛らしくて、あの子の標本にはピッタリだわね。」

「奥さま…。もうお終いになさったはずです。この前で終ったはずです。」

「黙りなさい。あの子が寂しがっているのよ。大事なあの子の友達を増やしてあげたいのよ」


数日後、丘の上のお屋敷に招かれた私たちは、お屋敷の中の大きな部屋に通され、奥さまを待った。

「まあ。いらっしゃい。可愛らしいモデルさんたち。お待ちしていたわ」

それから学校が終わると毎日、お屋敷へ通っている。奥さまがもう少しで絵が完成すると仰っていたある日、いつものようにお手伝いさんが紅茶を出してくださったのだが、紅茶のカップとソーサーの間に紙切れが挟まっているのに気づいた。驚いてお手伝いさんを見ると人さし指を立て唇に当ていた。

私たちは静かに紙切れを開く。

『もうここには来ないように。絵が完成したら、あなたたちは、ご子息の秘密の標本にされてしまいます。絵に閉じ込められてしまいます。』

『え!?」
「なにこれ…」

「この国で何百年も前から若いお嬢さんたちが何人も行方不明になっています。皆さん。ご子息の標本になってしまったのです。信じられないでしょう。信じなくても構いません。今日は体調がすぐれないと言ってお二人ともお帰りなさい。」

「帰ろう幸子。怖いよ。」
「え…。そうだね。」

お手伝いさんに案内され裏口を出た私たちは、奥さまにお会いすることなくお屋敷をあとにした。そう言えばいつから裏口を使うようになったのだろう。初めの日は玄関から入ったが次の日からはもう裏口を使っていた。考えると怖い。

あれから2週間が過ぎたが幸子はずっと学校を休んだままだ。心配になり幸子の家に行くと警察の車が停まっていた。

「やあ。君は幸子さんのお友達かな。警察です。幸子さんがいなくなってしまってね。君は心当たりはないかな?』

警察の方に聞かれ迷ったが、丘の上のお屋敷の話しをした。でも、誰も信じてくれない。きっと幸子は絵の中に閉じ込められてしまったのだ。どうして幸子はお屋敷へいったのだろう。
警察は私よりも、男爵家を信じているのだ。嘘のような話しだし、このままだと私が疑われるかもしれない。もう男爵家の話しはしてはいけない。誰にも。
私には幸子が無事に帰ってくるのを祈るしかできなかった。

「1人は誰かの悪知恵で逃してしまったわね。まあいいわ。もう1人は、こうしてあの子標本になったのだから。こんなに可愛らいお友達ができて良かたわね。ママも嬉しいわ。」

「申し訳けごさいません。奥さま。もうこれで終いにしてください」

大きな寝室の窓際の壁に1枚の絵画が飾られた。若い女性が1人パラソルを持ち、白いドレスを着てほほ笑んでいる。まるでウェディングドレス。よく見れば、窓際だけでなく壁一面に白いドレスを着た若い女性が描かれた絵画が飾られていた。

そして、寝室の中央のベットには白骨化した赤ちゃんくらいの大きさの何か置かれていた。

11/2/2025, 9:33:03 PM