すべて物語のつもりです

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 あじさいが咲いていた。
 通学路のすぐ傍にある公園の花壇に。
 とても綺麗な色だと思った。透明なビニール傘をくるくると回しながら、学校へ向かう。
 あじさいの鮮明な青色、紫色、赤色。
 もうあじさいが咲く時期かあと思う。きっと、来年も同じことを思うのだ。一年が経っても大して変わらないわたしが簡単に頭に思い浮かぶ。
 あじさいがいなくなったら、次は蝉が現れるだろう。そして、あっという間に紅葉の季節になって、それも知らぬ間に散っていく。
 人生はとてもハイスピードで進んでいく。見落としていることがきっとたくさんある。だから、あじさいに気付けてよかったと思う。
「おーい!」
 駅前で大きく手を振る友人を見つけた。周りの目など気にせずに大声で人を呼べる彼女が羨ましいけれど、今はすこし恥ずかしい。小さく手を振り返しながら、彼女にどんどん近付いていく。
 駅の床は濡れていて、いつ滑って転んでもおかしくなさそうだった。
 改札を二人で通り抜けて、人の波をなんとか泳いでいく。
「あじさい、咲いてたよ。」
 電車の中で押し潰されそうになりながら、友人に言った。
 音楽が好きな彼女はいつも耳に黒のイヤホンを差し込んでいる。けれど、彼女はいつもわたしと並ぶ時、肩が触れる方のイヤホンを外してくれている。
 それに今、気が付いた。
 友人が口角を上げた。
 それに気付けるわたしでよかったと思う。

6/13/2023, 12:09:23 PM