入木

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「ただ歩いただけなんだ」
彼女は長い髪をまだ冷たい風を、
髪に纏わらせて言う。
「何処に行きたかった訳でもないんだ」
桜の花びらは逃すまいにと、
彼女に執念深く纏わりついて。
「行きたい場所を選んだんじゃ無いんだ」
こらえる様に語る声とは裏腹に、
薄笑いの様な自笑する様な表情で。
「行ける場所を選んだんだ、
この身のままで、描いたままで受け入れられる様な所を」
自笑は深くなり、口先の歪みと目の潤みが深くなる。
「描けるなら良かった、ずっと望まれた姿で」
潤みは水滴へと姿を変えて、彼女の頬を伝っていく。
「なんでそんな風に生きられなかったんだろう」
自笑の笑みは無くなり、彼女がかつて嘲笑した、
泣き声が遠く聞こえる。
「もう疲れたよ」
少女の声で呟く。
かつて冷笑を浴びせた声で。
「君なら解ってくれる?」
縋るような声で、少女はそう言った。

#好きだよ

4/5/2025, 3:53:44 PM