冷瑞葵

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ありがとう

「バレンタインのお返ししたら『あなたの告白を受け入れます』って意味になるんだって。知ってた?」
「は? 何それ?」
 同僚に思わぬことを言われ、僕は固まった。急にそんなこと言われても、明日が問題のお返しの日だというのに。
「聞いたことないけど」
「街の子たちが話してたんだよねー」
「ローカルルールじゃない?」
「トランプじゃないんだからさ」
 同僚の言い方はあまり本気っぽく聞こえなかった。多分彼もそんな噂冗談だと思ってるし、明日は噂など無視してたくさんのお菓子をお返しするのだろう。
「普通に『ありがとう』って意味でお返しするもんでしょ」
「色んな意味でな」
 同僚は無関心そうに返事して仕事に戻りつつあった。切り替えが早いのは彼の取り柄だ。僕も彼を見習って人間リストの整理に取り掛かることにする。
「ところで最近不審死が騒がれてるから気をつけろよ」
「へいへい」
 僕は適当に返事をしてこの話題を切り上げた。説教臭いのはあまり好かない。
 僕たちは悪魔、またの名を天使。人の魂を喰らって生きる。
 容姿が無駄に良いので多くの異性に言い寄られる。男の形をしている僕らには人間の女が近づいてくる。バレンタインの日なんかは顕著だ。
 僕たちはそれを利用させてもらう。近づいてきた人間が次のターゲット。
 だからお返しを渡して言うのだ。「ありがとう」と。
 食べ物には感謝をしないとね。

2/15/2025, 9:48:46 AM