江戸宮

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先生の隠れ家である準備室に駆け込んでもう10分が経つ。
この時間の先生は小テストの採点をしているか私との雑談に花を咲かせているかなのに今日は読書か。

自分事を特別可愛い、だなんておこがましいことは一度も思ったことは無いけれど、可愛い生徒をほっといて読書なんて流石に酷いと思いません?
そんな先生が面白くなくて、少しでも先生の気を自分に向けたくて、先生が読んでいる本の中の一節を読み上げた。

「貴方、天国ってあると思う?」

「…君もこれ読んだことあるんだ。こういうの読まなそうなのに」

私の一言で先生に言いたいことは伝わったようで綺麗な顔でクシャッと笑って私をからかう。
あぁ、そんな仕草まで好きだ。さっきまでのモヤモヤは嘘のように晴れる。

「そうだねぇ、天国があるなら地獄もあるだろうし…逆に言うなら天国がないなら地獄もないんじゃない?俺個人としてはない方が面白そうだけど」

読みかけの本の表紙を撫でながらそう呟く。

「…じゃあ天国と地獄の狭間は?あると思いますか?」

「…君は随分変なことを考えるんだねぇ」

そうだなぁ、と少し考える素振りを見せた先生はすぐに何かいい考えでも思いついたのか口元をゆるりと緩ませた

「俺もあると思うよ。例えば光と闇。じゃあその間の色は?灰色かな。光でも闇でもどっちでもない色。だから天国と地獄その間もあるんじゃない?……ちょっと無茶苦茶かな、?」


ふふ、と笑った先生はまた口をひらく。

「じゃあ今度は君に質問。天国と地獄の狭間、そこには何があるのかな。君は知ってる?」

「…行ってみないことには分かりませんから、一緒に行きますか?」

「君はやっぱり面白いなぁ。でも心中相手はよく考えた方がいいと思うよ」


2023.12.2『光と闇の狭間で』

12/2/2023, 2:02:16 PM