目が覚めたら、全く知らない場所にいた。
何処だここ。心当たりのない場所に混乱していると、一人の男が俺の顔を覗き込んでくる。やっほー?と呑気に首を傾げるコイツを、俺は知っていた。
「なんで、?」
「あー、やっぱそうなるよね。」
そいつは、数ヶ月前に通り魔に刺されて意識不明と言われていた俺の友人。バカ真面目な性格の学校の生徒会長。友人のせいで余計に混乱した俺にコイツはケラケラと笑い始めた。
「いやー目が覚めたらここにいてさ。困ってた所に君が来た。」
俺の呆然とした顔を見て一通り笑うと、目尻に溜まった涙を軽く拭って話し始める。といってもコイツもここに来たのは俺の少し前だったらしく、詳しいことは分からないらしい。
「何すれば出れるのかな。」
「お前をちゃんと殺せば出れるか?」
「物騒なこと言うなよ。刺されるのはもうコリゴリだ。」
肩を竦めて首を振るコイツに、心配して損したと密かに思った。意識不明の重体だと聞いた時には焦りすぎて記憶がほぼ無い状態で、気づいたら病院にいた。帰って部屋に行こうとする俺に母親が手に負えなかったと言ってきたのは、流石に反省している。
「……君に言いたいことを言えばいいのかな。」
突然、今までおちゃらけた様子の友人の雰囲気が変わった。冗談などでは無いと分かる表情に、足元から這うような恐怖が自身を包み始める。コイツの儚げな表情と少し伏せられた目に、嫌な想像をしてしまった。
「あのさ、「言うな。」
切り出すような言葉を咄嗟に遮る。今言うな。絶対に、今だけは言わないでくれ。そう思いを込めて鋭く睨みつけると、友人は深いため息をついた。
「じゃあどうしろって言うのさ。これ以外になにか方法が?」
呆れたような物言いに、無意識に奥歯に力が入ったようでギリっと音が鳴る。どうしろって、知らねぇよ。お前より俺の方が馬鹿なんだから知るわけないだろ。でも、絶対に今言わせてはならないって分かる。
……今。
「なら、約束しろ。」
「はぁ?」
「ここじゃない、別の場所で俺に言いたいことを言うって、約束しろ。それなら例え条件が言いたいことを言うだったとしても問題ねぇだろ。」
次は、友人の方が呆然とした表情のまま固まった。
なんだ、変なことは言ってないぞ。
「…君、ほんっとに馬鹿なんだねぇ。」
やっと話したと思ったら、間延びした声に煽る様な言い方。額に青筋が浮かびそうになりながら、あ?とだいぶ低い声を出す。そうすると、友人は冗談冗談と降参するように両手を頭より上にあげた。
「うん、君にしては良いアイディアだ。」
何様のつもりだと言いたかったが、ニヤリと悪巧みをするように笑ったコイツに何も言う気になれず。
友人の高々な宣言を黙って聞くことにした。
「僕は!言いたいことをここじゃない別の場所で!
生きて!彼に伝える!!絶対に嫌味増し増しで!!」
4/16/2023, 10:54:44 AM