忘れてしまいたいことがある。
私は、自分のなかに芽生えた小さな命を絶やしてしまったことがある。
受動的に、ではなく、能動的に。
その生命は、私ひとりで創り出したものではなかったが、終わらせる時は私だけだった。
正確に言えば、医師の手は借りたし、その子の父親は、終わらせるのに必要な費用を口座に入れてくれた。しかし、病院の手配も自分で行い、術後はタクシーも使わず歩いて家に帰った。
今まで生きてきて、自分の「在るべき姿」に1番背いた瞬間だった。
なんでも話してきた家族にこのことだけは言えなかった。この先も言うつもりはない。
それほどまでに大きな出来事なのに、自分の人生に起こったことだとは思えない。自分はなんて無責任で、いい加減な人間なんだろう。
その生命は苦しみを感じたのか。
生まれることができなかったのを悔やんだか。
私を、憎んだか。
そういったことを考えることすらエゴかもしれない。
まともに向き合うと、壊れてしまいそうになるから、この出来事は「他人事」というフォルダに格納されてきるらしい。一種のバグである。
そして、平気な顔で、「はやく子ども欲しいし、あったかい家庭を作りたいな」などと、宣うのであった。
1.小さな命
2/24/2023, 5:51:51 PM