月下の胡蝶

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お題《蝶よ花よ》



神から見捨てられた地で。




神から捨てられた地に光は宿らない。


くすんだ、枯れ果てた大地で、命は生きられない。




「俺といかないか」



薄汚れた私に手を差し伸べる青年。


かみ……さま……?



光の宿らないこの地に、月灯りがさしこむ。


立派な白い翼――それは天からの使いの証。鉱石の青を想わせる瞳が、静かにこちらを見つめている。



瓦礫に埋もれたこの場所で。


私は、その手をとった。





それから時は流れ――。



「セシル、庭のオボロの実たくさん収穫した」

「よし。じゃあ今日はノーマの好きなオボロのパイでも焼くか、手伝ってくれるか?」

「う、うん」



私は神の箱庭でセシルと暮らしている。


セシルからたくさんの愛情と優しさを注がれて育てられ、今はちいさなお茶屋さんをセシルと一緒に、辺境の地で開いている。




「いらっしゃいませ。ここはあなたの帰る場所。いつでも来てね」




月灯りの蜜とまほろの葉を浮かべたお茶で、今日もあなたを出迎えます。




8/8/2022, 11:24:10 AM