名無しの夜

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自分のお部屋を貰ったのは、
小学校入学と同時だった。

机、ベッド、本棚。

新しいお家で
こっそり用意されていたそれらは、
家具屋さんで私がいいなぁと言っていた物。

だからとてもとても嬉しかった。

……しばらくは、一人で眠ることだけは
少し怖かったけれど、やがて慣れた。


でもそのお家に長く住むことはなかった。


転勤、転勤で
あちこち移動した。


私は一人っ子だったから
どこでも
四畳半〜六畳のお部屋を与えられていた。

恵まれていたのかもしれない。


親達は、会社や世の中、
そして家庭と日常にも疲弊して

どんどん見えない部分から荒れていった。

いちはやく危機感を持って動いたのは、父。

単身赴任で、自ら家庭から旅立っていった。


残された、母と私の二人暮らしは

もう思い出したくない。


最後の家の、六畳の私のお部屋には、
私の好きな物をたくさん詰め込んでいた。

捨てられてしまったものも
たくさんあったけれど

懲りずに、また集めた。


この部屋があれば、
この部屋で過ごせるなら耐えられると

そう思っていた。


だけど。

もう無理だ、
こうして耐え続けても何も残らないどころか
本当にダメになると気付いて。


すべてを置いて、

全部、捨てて

私は部屋を、家から出て行った。



今でも——

時々、あのお部屋を思い出す。


私のすべてだったお部屋。

私が唯一、私でいられた場所。


あのお部屋に残して
もう処分されてしまっただろう物たち。

連れて行けず、ごめんね。

支えてくれて、ありがとう。

6/5/2024, 6:11:53 AM