いろ

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【手を繋いで】

 洞窟の影で身を潜めていれば、聞き慣れた声が僕を呼ぶ。安堵とともに顔を出せば、パタパタと足音が駆けてきた。
「良かった! 無事だったんだね」
 出会った頃よりも随分と大人になった君は、それでも出会った頃と同じ無邪気さで僕の手を取った。
「猟師が森に入ったって聞いて、心配したんだよ」
「大丈夫だよ。隠れるのは得意なんだ」
 宥めるように微笑みかければ、君はギュッと僕の手を握り込む。その指先が冷たく震えていた。
「知ってる。知ってるけど、心配くらいさせてよ。君は私の、大事な友達なんだから」
 ニンゲンなんて、大嫌いだった。森に迷い込んできた幼い君の前に姿を現したのだって、怯えさせて追い払ってやろうと思ったからだ。だけどそれでも、半獣半人たる僕を見て綺麗だと笑った君は。友達になろうと手を差し伸べてくれた君のことだけは。特別で、大切で、愛おしいんだ。
 村長の一人娘と、村で恐れられる獣の子。正反対の僕たちは、それでも手を繋いで生きていく。いつか一緒に、日の当たる下を歩こうね。そう約束してくれた君の白く美しい手を、僕も無言で握り返した。

12/9/2023, 11:58:50 PM