#⚡ #歌声
子の刻。日を跨ぎ、時が裏返った真夜中。ほのかに浮上する意識の中、薄らと寒さを感じる我が身を抱きしめ、眠気まなこを擦る。寝る前に置いた羽織、どこだっけ。ふわふわとした思考、少し重たい身体。秋の涼しさを帯びた床によって心地よかった体温はじわじわと奪われていく。
「あ、あった」
隣のベットの横に置かれた椅子の上、見つけた己の羽織は月の光を静かに浴びていた。昼間、炭治郎たちが来ていた時に脱いだままにしてしまったのだろう薄い桃色のそれが、何だか特別になったような気がして、ついニヤけてしまう。月明かりに照らされた程度で特別になりはしないのだけれど。羽織を広げ、袖を通すと求めていた温もりを僅かに感じた。
「………あ。この歌、」
まだ夜は明けないだろうから二度寝をしようかと踏み出した時、聞き慣れた歌声が耳に入った。包み込むような優しい歌声はどこか儚げで、迂闊に触れると壊してしまいそうである。
今日は傍に行かない方がいいかな。
私は病室の窓に足をかけ、引き上げた体を外へと連れ出した。素足にひんやりと感じる地面。こうして目を覚ますのは一度や二度のことではなかった。幾度も意識を浮上させ、眠気を誘うその声。起こしたいのか眠らせたいのかどっちなのよ全く。悪態をつきながらも、起こされるのが実はそんなに嫌いじゃないことは黙っておくとして。私も集中せねば。
手足に伸ばした意識を閉じ、耳や口だけに集中する。視界は不要だと言わんばかりに目を閉じた。彼の歌声にふわりと私の声を乗せて。遮らず、邪魔をせず。ただそっと寄り添う。重なる音が心地よくてもっと歌いたくなるけれど。今夜の主役は彼なのだ。私はただそっと、彼に寄り添うだけ。
そうして気付かぬ間に歌が終わり、夜が明けているのがお決まりだ。閉じていた手足への意識を戻し、目を開けるといつも彼は。困ったような、申し訳なさそうな、顔をしてでもどこか満足気に笑ってくれる。
【君が紡ぐ夜明けの歌に、寄り添いたい私】
10/19/2025, 1:42:05 PM