君と最後に会った日
成人式で久々に集まった。
式が終わったあと、旧友十数人で食事会を開いた。
姿は確認していた。ただタイミングが見つからず、なかなか声をかけられずにいた。結局そのまま、食事会は終わった。
二次会でカラオケに行く、という事になった。目をやると、彼女は参加せずに帰るようだった。友人が行くぞ、と言ってきたが、不参加を伝えた。
帰宅者がバラけそうになったのを見計らって声をかけた。
なあ。
なに。 彼女が振り返った。表情に驚きはない。こちらが声をかけるのを予想していたのだろう。
久しぶりだな。
うん。
カラオケ行かないのか。
行かない。明日早いから。行くの?
いや。
そう。それで?なにかあるの?
彼女の冷静な声に戸惑ったが、それでも目的だけは果たしたかった。
これ、返すよ。 ポケットからピアスを取り出した。
まだ持ってたの?
ああ。本当は、最後の日に、卒業式の次の日だっけ、あのとき返そうと思ったんだけど、出来なかったから。
ふうん、と言いながら彼女は受け取った。
今さら返されてもさ、贈ったものなんだし。
でもそういうの初めて貰ったから。アクセサリー。どうすればいいかわかんなくて。
そう。 彼女はこちらをじっと見つめたあと、近くの排水溝に投げ捨てた。
驚きの声が出る前に彼女が、
あんたさ、生真面目過ぎ。だから悪い女に引っ掛かるのよ。 と言った。
もっとさ、気楽にしなよ。まだ若いんだし。
偉そうに。同じ歳だろ。
そっか。そうだった。 彼女が笑った。今日初めてみた笑顔だった。
じゃあ帰るね。
ああ。
カラオケ行ったら?たぶんみんな待ってるよ。あんたの音痴なミスチル。
うるさいよ。 こちらも笑顔が出た。何かがすっと消えて軽くなった気がする。
じゃあな。
うん。さよなら。お互い振り返った。
駆け足で友人達を追いかけた。
6/26/2024, 10:41:05 PM