Ichii

Open App

ココロオドル

好きなゲームの最新作が出たというのを知ったのは知り合い経由であった。昔からゲームが好きで、人よりは色んなタイトルをプレイしてきた自負のある自分だが、その分好みというのも強くなり、向いてないなと感じたものはプレイ時間もそこそこに見切りをつけてきた。そんな自分が特に好んでやりこんだシリーズ。幾度と媒体が代わり、共に歩む仲間が変わったとしても寝食を忘れて没頭したそれの、新作とあれば、一も二もなく飛びついたであろう。少し前の自分であれば。今はもう、その感動は色褪せてしまっていた。
発売日を指折り数えた日々、ストーリーが進む事に一喜一憂した感動、レアアイテムの収集に熱心になり、図鑑が埋まっていく楽しみ、友人と協力してクリアした達成感。それらもいつの日か課題の締切であったりテスト期間であったり、レポートであったりと、多忙な日々に自我を殺される中で薄らいでしまった。
自分は何故、こんなにも苦しんでいるのだろう。
時折、ふと我に帰ることがある。自由になりたくて、楽をする為に頑張ってきたはずだった。いい成績をとれば、いい大学に入れば、いい資格をとって就職すれば、自由になれると信じてここまできた。投げ出したい時も、いつかの自由の為ならと身を差し出してきた。けれど、いつまでも苦しいままなのだろう。私は、何時になったら自由になるのだろうか。
勉強も出来ない落ちこぼれと内心嘲笑っていた知り合いが、楽しそうに私にゲームの話をする。これまでは、私の方が詳しかったのに。
吐き気に似た何かが込み上げて、空っぽの口の中にえぐみが広がった。大人になったら好きなだけゲームを買って、好きなだけ時間を費やして、馬鹿みたいに笑いながら遊ぶのを夢見てた。現実は、最新作の発売にも気付かないで、好きでも無いビジネスアプリを使う毎日。いっそ全部諦めて、キャリアを積むだけの人生を選べたら良かったのに。
それでも、それでも。時が止まったままのセーブデータを見る度に、心がざわつくあの感覚を忘れられずにいる。

10/9/2023, 4:57:33 PM