悪役令嬢

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『私の日記帳』

あたしの名前はモブ崎モブ子!
私立ヘンテコリン学園に通う高校一年生。

現在、あたしはパンダ保護施設で
アルバイトをしています。

事の発端は夏休みが始まる前に遡る────

「職業体験?」

担任から説明された内容は、大きなサイコロを
投げて出た目の仕事を体験するものだった。

牧場体験、ジャスタウェイ製造、メイド喫茶、
パンダ飼育員、着ぐるみの中の人、カニ漁船…

(カニ漁船だけは嫌だ!カニ漁船だけは嫌だ!)

期待と不安が入り交じる中、
クラスのみんながサイコロを投げていく。

あたしが引いたのはパンダ飼育員。
ホッするモブ子の近くで、高飛車お嬢様が
取り巻きたちと話す声が聞こえてきた。

「メア様…本当に大丈夫ですか?」

「オーホッホッホ!ぜーんぜんへっちゃらですわ。
私が皆さまにカニをお土産に持って帰ってきて
差し上げましょう」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

檻の中を掃除していると、赤ちゃんパンダが
ぷーぷーと鳴きながらモブ子の足に
すがりついて来たではないか。
その姿はまるで動くぬいぐるみ。

「ん〜?どうちたんでちゅか~♡?
遊んでほちいんでちゅか〜♡?」

人は可愛い生き物を前にすると
知能指数が著しく低下してしまうのだ。

バイトを終えたモブ子が街中を
歩いていると、炎天下のもと風船を片手に
子ども達からガシガシと蹴られている
クマの着ぐるみを発見。

(うわあ、この暑い中よくやるなあ)

遠くからその様子を眺めていると、ふいに
着ぐるみの黒い瞳が真っ直ぐこちらを射抜いた。

ずんずんとモブ子の方へ近寄ってくる着ぐるみ。

パカッと頭を脱いで現れたのは、
黒髪の美青年だった。

「学級委員!?」
「モブ崎さん、お疲れ様です。上がりですか?」
「うん、学級委員もお疲れ様~」
「もうすぐ仕事が終わるので、この後
ランチでもいかがですか?奢りますよ」
「え、でも悪いし…」
「セバスチャンが働いているところですよ」
「!?」

セバスチャン・フェンリル君。
モブ子の絶賛片思い中の相手だ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「おかえりなさいませ、ご主人様♡」

ふりふりのエプロンを着た可愛いお姉さん達が
出迎えてくれる夢のような場所は、
メイド喫茶という店だった。

モブ子はオムライスとクリームソーダ、学級
委員はピザトーストと珈琲フロートを注文。

「お待たせしました…?!
オズワルド、モブ崎…どうしてここに…」
「フェンリル君?!」

そこにいたのは、銀色の長いウィッグを
被り、軽く化粧が施された丈の短いメイド服
姿のフェンリル君の姿であった。

「いや~、よく似合ってますね。セバスチャン笑
お嬢様にも見せてあげたかった!」
「うん、本当にきれいだよ!」

体格は男性っぽさがあるけれど、
整った顔立ちとすっとした姿勢から
背の高い綺麗なお姉さんに見えた。

「……」

クスクス笑う学級委員と額にうっすらと青筋を
浮かべながら給仕に専念するフェンリル君。

「も、萌え萌えきゅん…」

小声でボソッと呟きながら、フェンリル君は
ケチャップで綺麗なハートを描いていく。

その夜、モブ子は今日の出来事を
思い出しながら日記を書いていた。

〇月‪✕‬日
今日は職業体験に行ったよ!
可愛い赤ちゃんパンダ達と触れ合えて幸せ✨️
学級委員にも会えたし、何よりフェンリル君
のレアな姿も見れて超ラッキーo(>ω<)o!

満足気に微笑んでいると、愛犬であるパピヨン
のカレンチャンがモブ子のもとにやってきた。

「明日もいいことあるよね、カレンチャン」
「きゃん!」

8/26/2024, 10:45:21 PM