【鐘の音】
厳かなる鐘の音が、雨に包まれた街に今日も鳴り響く。ああ、また誰かが死んだのか。閉ざした小屋の窓からぼんやりと、僕は遠くに霞む鐘撞台を見上げた。
人が死ねば追悼のために鐘を鳴らす。それがこの街のルールだ。降り止まない雨の影響で生活が立ち行かなくなり、ここのところは毎日のように鐘が撞かれていた。
薄いシーツを頭からかぶり、カタカタと小さく震える君の身体をそっと抱きしめる。宥めるように何度も、その背を優しく撫でながら。
「大丈夫、大丈夫だよ。君のせいじゃない」
君の身体から立ち上がる無限の魔力。制御の効かなくなったそれが天へと昇り、雨雲を生み出し続ける。
君を殺してしまえば、この鐘の音はやむのだろう。だけどそんなこと、僕にできるはずがない。僕を救ってくれた君の命を、この手で奪うことなんて。
響き続ける鐘の音は、僕の罪の証。君を匿い、君を生かし続けている僕の罪悪。鼓膜を震わせる清浄なる追悼の音色を聴きながら、僕はただ君の耳を優しく塞いだ。
8/6/2023, 12:09:12 AM