虚紳士

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僕は、子供の頃から花占いが好きだった。

「あの子は僕のことが、好き、嫌い、好き、嫌い、好き…嫌い…」

なぜだかいつも『嫌い』で終わってしまうし、あんまり当たってなかったから、占い自体は信じちゃいなかった。だけど、花びらを一枚一枚、プチ、プチ、とちぎる感覚に何とも言えない高揚感があって、僕は花占いを夢中でやっていた。
小学生になっても、中学生になっても、そして、高校生になっても…。


新学期明け、ざわつくホームルームに、少し遅れてきた先生に続いて入ってきた。

あれは…花だ。
綺麗な桃色の花弁をつけた一輪の花だった。
…なぜ花が教室に入ってくるんだろう?
意味不明な状況でチンプンカンプンだったが、とにかく僕は、その時一目でその花に夢中になった。


その日から僕は桃色の花のことしか考えられなくなった。
教室にいる間もずっと見ていたし、自分の部屋でくつろいでいる時も、お風呂に入ってる時も夜寝る前も…。あんなに綺麗な花はない。あの花弁ときたら、息を呑むほどに美しくて…。

絶対に手に入れたい。手に入れたら、その時は…
抑えきれない高揚感に、指先が疼いていた。



…いつかの放課後の帰宅途中、僕は教室に課題ノートを忘れていることに気がついた。
だいぶ遅くのことだったので、教室が閉まってるのではと慌てて学校へ向かった。

汗がダラダラ。息がゼェゼェ。階段を駆け上り、バン!と荒立たしく教室の扉を開けた。
そして、僕は驚き、指が震えた。


真っ赤な夕日の差す静かな教室にポツンと、一輪の花があった。
驚き、静かに僕を見ていた。


その姿に僕は凄まじい高揚感に襲われた。一歩一歩、近づいて。


なんて、綺麗な花なんだろう。
優しい桃色で…そんなに繊細で美しく透き通ったような花弁をつけて…それに、何だかいい匂いだってする。




…どんな感触がするんだろう。





…ああ、触りたい。…触らせてくれ。









だから、僕は────



─────『一輪の花』

2/24/2025, 5:17:24 PM