谷折ジュゴン

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創作 「一年後」

押入れを整理していると、古いノートが出てきた。表紙には、拙い字で「グリモワール」と書かれている。

「うわ、これ昔書いた小説じゃん。懐かしい」

大人ぶった難しい単語や言い回しで、物語を一生懸命考え出した跡があった。そして、構成はめちゃくちゃだが、今の私には思いつかない突飛な発想でノートを埋めている。

恥ずかしくも、微笑ましい気持ちで頁を捲っていると、二つ折りされた一枚の紙が挟んであった。

「一年後の私へ、小説家デビューしてますか。か、結局一年じゃ作品完成できなかったんだよね……」

この手紙を書いてから数年が経った。たぶん今の私が頑張って小説を書いても、世間を気にしてぶっとんだことは書けないだろう。

それがたとえ、誰にも見せないノートだったとしても恥が枷になって思ったことを素直に書けないはずだ。とは言いつつも創作意欲が湧いた私は、さっさと掃除を終わらせて机に向かうのだった。
(終)

5/8/2024, 2:02:04 PM