とある恋人たちの日常。

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 ねえ、誰か。
 もうひとりはイヤだよ。
 
 私は手を伸ばす。
 そこは空をきって何も掴めない。
 
 胸の奥から悲しくて、寂しくて涙が溢れてくる。
 
 やだ、ひとりにしないで。
 お願い、誰か……。
 
「……うぶ!?」
 
 なにか聞こえたような気がして、その瞬間手が暖かくなる。
 
 誰かの声が聞こえて、私は意識を取り戻した。そこには焦った表情で私を見ている青年がいた。
 彼は私を見るとホッとした顔をする。
 
「良かった、目を覚まして。大丈夫?」
 
 その表情は私の胸に優しい明かりを灯した。
 
 ――
 
 私はひとりが怖かった。
 でも、今は平気。
 
 あの時灯った優しい明かりは強く灯っている。
 
 彼はお医者さんで、倒れた私を介抱してくれた人。私はおっちょこちょいだから、しょっちゅう彼のお世話になるうちに友達から、たったひとりだけの大切な人になっていた。
 
 彼は私のそばにいてくれる人になってくれて。
 私はもう、ひとりが怖くなくなった。
 
 
 
おわり
 
 
 
五〇五、誰か
 
 
 

10/3/2025, 1:28:17 PM