「家に帰りたくないんだけど」
学校が終わって、一緒に帰ろうと誘ってくれたフォルテに対してボクはそう答えた。
家が嫌だとか、親が嫌いとかそういう訳ではなく、ただなんとなく家に帰りたくなくてもう少し外にいたくて、フォルテとも一緒にいたい…………とは口には出せないけれど。
でも、彼がボクのワガママに付き合ってくれる見込みもない。真面目な彼はきっとボクをおいて一人で帰ってしまうことだろう。
そんなボクの思いと裏腹に、いたずらっ子のような笑みを浮かべて彼は言った。
「じゃあ、夜景が見れる時間まで一緒にいようか」
学校にずっとはいられないからと、カフェに行ったりショッピングモールでお店を回ったりしていたらあっという間に夜になってしまった。
夏の終わりがけだから、少しずつ日没が早くなっているのが原因なのか、彼との時間が楽しかったからかボクには分からないけれど。
高い建物の最上階から外を見渡せば、店やビルの明かりが綺麗な夜景を作り上げていた。
イルミネーションとかとは違う毎日見れる普通の光景だけれど、フォルテと二人で見ているという事実が夜景をより綺麗にしていた。
夜までいられて幸せだけど、今から帰るのは憂鬱だな……。
「ところでメゾ」
フォルテがそう口を開いたから彼の方を見つめれば少しだけ意地悪な顔で言った。
「僕と一緒にいたいからってワガママを言っていたみたいだけど、これじゃあ逆効果になってないかい?」
「…………え」
「顔、赤くなってる」
彼は余裕そうにそう言ったけど、ボクの頭は大混乱で。最初の思惑も、今の気持ちも全部全部彼にお見通しだったらしい。
「…………フォルテは、楽しくなかった?」
「きみと一緒にいて、楽しくなかったことがないよ」
彼はそんなキザなセリフを吐きながら笑った。
9/19/2024, 4:36:57 AM