くまる

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ここは世界の端。最果ての島のさらに端の森の中。少女は一人、暮らしていた。気付いた時には、少女は一人で、けれども不自由する事もなく、一人孤独に生きていた。彼女は魔法が使えるのだ。喉が渇いたと思えば、目の前に水が溢れ、お腹が空いたと思えば、食べ物が目の前に現れる。寒くなれば、火が付いて、傍にあった枯葉たちが柔らかい布団になる。危険なものからは、結界が守ってくれた。だから、少女は一人、不自由する事なく、この最果ての地で生きていた。

「○‪✕‬‪✕‬△!」

ある日、少女の前に、一人の人間が現れた。少女は、自分と同じ形の生き物を見るのが、初めてだった。

「○○○!」

何か鳴き声をあげている。人間は、首を傾け、懐から棒切れを取り出すと、少女に向かって振る。

「これで、どうかな?」
「!!」

人間の鳴き声が意味を成して聴こえる。少女は知らなかったが、彼女は、まだとてもとても幼い頃には、人間の世界で暮らしていた。目の前の人間の言葉が、鳴き声にしか聞こえなかったのは、彼女が聞いた事の無い言葉だったから。彼女は、何年ぶりか、言葉を口にする。

「こんにちは。」
「ああ!こんにちは。私は、ルヴァン。君の名前は?」
「なまえ?」

なまえ、って何だろう?少女は不思議そうに、人間を見つめる。

「ああ、そうか。君は名前を覚えてないんだね。」

そう言うと、人間は腕を組んで、首を傾ける。少女も、同じように首を傾けてみた。

「まぁ、人違いでも無いよね。君の名前はガク。私は君を探して、ここまで来たんだ。一緒に行こう!」
「どこかへ行くの?」
「そう!君は最高の魔法使いになれるから!」
「さいこうのまほうつかい?」
「うん。僕の所へ占い師がやってきて、助けに行けって言うからさ。その人にも、お礼をしなくちゃ。おいで。」

人間は少女に手を差し出す。少女が手を伸ばすと、その手を取られ、強引に引き寄せられる。バランスを崩した少女が、人間の方へ倒れると、ぎゅっと抱きしめられた。

「おかえり。」
「?」

少女は知らなかった。人間が、彼女の生き別れの家族だという事。少女の魔力が強過ぎるあまり、彼女が間違えて、この最果ての地へ、自分の力で飛んでしまった事。人間は、大切な家族である彼女を、ずっと探し続けていた事。それを知るのは、彼女がもう少し大きくなってからの事だから。

3/15/2025, 2:25:09 AM