小林 薫子

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明日世界が終わるなら私は和風亭の大原御膳を食べる。

説明しよう。和風亭とは沖縄県にあるサンエーというイオンのようなショッピングモールのテナントに入っている和食レストランである。

 その中で私が最後の晩餐として1位指名しているのが大原御膳(税込2000円)だ。
大原御膳は、寿司、天ぷら、ざるそば(麺は選べる)、茶碗蒸しから成る豪華和食セットなのである。

お寿司は、まぐろ、エビ、サーモン、ホタテ、鯛が平たくて四角い黒陶の皿に、ひとつひとつの造形を見てくれと言わんばかりに距離を取って優雅に置かれている。
 
 天ぷらは、なす、れんこん、大葉、かぼちゃがお互いを支え合うようにして山の形に盛られ、最後にしっぽを上にして、しゃちほこのようにエビが頂きに瞬き、君臨している。 

 ざるそばは、てかてかと輝くそばが、きれいに麺線をそろえて鎮座しており、その上に刻みのりが彩りを加えている。

 そしてこの主役級のアベンジャーズのようなキャストを影で支えているのが茶碗蒸しだ。

 主役級をがっついて胃がびっくりしないように、私はまずこの茶碗蒸しに手をつける。
持っても熱くならない程度の適温の湯呑みをわしづかみにして蓋を開けると、ぷるんとした薄黄色い地の部分が顔を出す。
 朱塗りの小ぶりなスプーンを突き刺すと中央からしいたけが飛び出し、おだしのいい香りが漂うのだ。口に入れると、しいたけに閉じ込められたうまみがじゅわっと口の中にひろがり、なめらかな卵の部分とまざりあっていく。

 茶碗蒸しで胃の準備を完了したあとは、贅沢な三角食べだ。(道明寺にしようか花沢にしようか。知らない人ごめん)
 その日の気分で変わるが世界最後の日はざるそばから手をつけよう。
 わさびはせき込まないように用意されてる分の半分を使用する。ネギと一緒につゆの中に入れてよく混ぜ、最初のひとくちは麺を三、四本少なめに取る。
つゆは麺の下の部分に軽くつける程度ですすると鼻の奥にそばの香りが突き抜けるのだ。
最後につゆとわさびが追いかけてくる。このまま駆け抜けたくなるがここは我慢。
 
 天ぷらの山へと移動する。
手始めに大葉からいこう。薄くつけられた衣が向こう側の光を通して後光のように鮮やかな緑がきらめいている。食感を失わないように、温められためんつゆは少しだけつけて頬張る。さっくりと歯に感触が伝わり、そのあとに大葉のほろ苦さが脳髄を刺激する。

 お次は寿司だ。せっかくだから手で食べよう。世界は終わる。箸など使ってられるか。まぐろからだ。粋じゃない?関係ねぇ。まぐろが俺からいけと叫んでいるのだ。
 横に倒してネタ部分にしょうゆをつけ、口に入れるときに逆さまにして食べる。ファーストタッチはネタの部分からだ。ねっとりとした濃厚な舌触りに分厚いくせにかみ切れるやわらかな食感。ほとんど同時にしゃりがほぐれてひとつぶひとつぶが踊り出す。

 三角食べを交互に繰り返したあと、私はいつもあることに悩まされる。それはフィニッシュを天ぷらのエビにしようか寿司のエビにしようか決められないことだ。
 スーツを着た彼か、上半身を脱いだシックスパックの彼か、私は世界最後の日までこの決断に苦悩するのだろう。
 

 
 
 

 

5/8/2026, 2:37:05 AM