『落下』
カラスに見つかってしまった。
私はモンシロ蝶の幼虫ですけど、家庭菜園のキャベツをかじってましたら、その家のガキに捕まって風船にくくりつけられて大空に飛ばされました。
私の周りを飛ぶカラス。
ガキは、良かれと思ってやったらしいんです。芋虫ちゃんも空を飛びたいでしょ、って。そんなことしなきゃ、そのうち飛べたんだよ、蝶なんだから。
お願いします。見逃してください。こんなめにあった上に食べられてしまうなんて。不幸すぎる。
私は必死に頼んだ。
「お前じゃ無くて風船が欲しいんだよね。巣作りによさそう」
カラスはそう言って、風船を掴もうとする。私の事はどうでもいいらしい。
ふ、風船が割れる。割れた、落ちるうぅ。
落ちて行く。元々、幼虫のうちに死ぬ方が多い。成虫になるまで生き延びた時点で、子孫を残してよい子は優秀だ。私なんて、成虫になっても結婚など興味をもたず、飛び回っているだけだろう。
だって私は空を飛ぶのが夢なんだもの。恋愛も出産も興味ない。モンシロ蝶としての義務を果たさない私は成虫になる資格は無かった。
地面が私を引き付けている。土になってもよい。
生まれたからには、いろんな使命もあるもんだ。
5/9/2023, 5:55:38 PM