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 僕の名前は、杉下 健太。
 二人しかいないゲーム研究部に所属しているんだ。
 内訳は、誰もが認める絶世の美少女である部長と、何の変哲もない僕の二人だ。
 活動内容はゲームの研究――ではなくゲームばかりしている実に退廃的なクラブだ。

 もちろんゲームばかりしている部活に、予算を出す学校は無い。
 なので、遊ぶ合間に適当にでっち上げ、レポートをネットに発表するなどして誤魔化している。
 なぜかそれがネットで受けて、一部の界隈で有名になってしまったのだが……
 まあ、そんな感じで楽しくやっていた。

 にもかかわらず、ウチには部員が二人しかいない。
 たまにあるレポート制作を除けば、天国のような環境なのになぜなのか?
 それは、現部長に原因がある。

 この部活は古くから『部の中で一番ゲームがうまい奴が部長』という、体育系も吃驚のしきたりがある。
 で、前部長が引退した際に、現部長が勝ち残り就任したわけだが……

 けれど、他者を圧倒するほどのゲーマーは、得てして変人である。
 現部長も例外じゃない。
 さらに部長は変人の多いゲーマーの中でも、特に変人の部類。
 『作業ゲー』と呼ばれる、多くの人が苦痛と感じるゲームが大好きなのだ。
 部長に就任してからは、部員たちに作業ゲーを押し付けるようになった。
 それに嫌気が差した部員たちは、一人また一人と辞めていった……

 前部長も『クソゲーが好き』という、とんでもない変人であったが、『自分は変人である』ことを分かっているタイプの変人であったので、そんなトラブルは皆無。
 それに対し、現部長は自分を『普通よりゲームが好きな、どこにでもいる少女』と固く信じているので、善意で『作業ゲー』を周囲に押し付け、部活を崩壊させてしまった。

 そんな流れで、部長以外には僕だけが残っただけなのだが……
 僕が研究部を辞めずに、残っているのには理由がある
 実は僕、部長の事が好きである。
 研究部に入ったのも、お近づきになりたいからで、今回の事件も『二人っきりになれば、いいムードになるかも』という下心で残っている。
 もっとも、部長はゲームバカなので、そんなムードになった事は無いけど……

 話が長くなったけど、僕がゲーム部に所属しているのはそう言ったわけ。
 そして今日も、研究部の部室にやって来た。
 『部長と仲を深められるといいな』という微かな希望を胸に、僕は部室の扉を開ける

「こんにちは」
 僕は挨拶しながら部室に入って、すぐゲームをしている部長の姿を認める。
 僕が来たのは気づいているのだろうが、返事が無い。
 明確に無視されたのだが、いつもの事なので気にしてない。

 なぜならゲームに忙しい部長は、挨拶を返さないのだ。
 僕はカバンを机の上に置いて、部長の隣に座る。

「何やっているんですか?」
「……見たら……分かるでしょ……テトリス……だよ」

 部長はモニターから目線を外さず、質問に答えてくれる。
 たしかに部長の言う通り、テトリスには違いない。
 けれど、テトリスとは思えない光景が広がっていた。

 ブロックが異常な速度で落ちて積まれていき、そして積まれていたブロックが異常な速さで消えていく。
 はたから見て、一体に何が起こっているのか分からなかった。

 テトリスはスコアが上がるごとに落ちる速度が上がると聞いたことがある。
 けれど、目に見えないほど早くなるのは、始めて見た。
 そしてそれに対応する人間も始めて見た。

 ……もしかしたら部長は人間ではないのかもしれない。
 そう思うと、急に部長が恐ろしいもののような存在に見えてきた。

 とそこである事を思い出す。
 そういえば、昨日も部長はテトリスをやっていた。
 僕が帰ろうと誘った時も『いいところだから、先に帰ってくれ』と言われたのだが……
 気のせいか、昨日いた時の位置と変わってない気がする。
 ゲーマーは、ときには徹夜することもあるが、もしや……

「部長、もしやと思いますが、昨日は寝ましたか?」
「……たくさん……寝たよ……」
 嘘だ。
 部長の目の下には、濃いクマが出来ていた。
 このゲーム狂、間違いなく徹夜である。

「寝ましょう!」
「……だめ……いいところ……だから……」
「中断しましょう!」
「……だめ……勢いが……なくなる……」
「この前、徹夜ではやらないって約束してくれましたよね」
「……でも…手いいところ……だったから……」

 うん、知ってた。
 僕が少し諭したくらいで、この人が寝るわけがないんだ。
 多分、これ以上言葉を掛けても、部長は態度を変えることはないだろう

 という訳で実力行使である。
 僕は椅子から立ち上がって、ゲーム機へと近づく。
 ゲームの電源をシャットダウンして、むりやりゲームを止めさせるんだ。
 言っても聞かないのだから、強硬な手段に出るしかない。
 僕のその意図に気づいたのか、部長が怒気をはらんだ声で僕を怒鳴る

「……杉下くん!
 ……何をする……つもりなの!」
 僕は振り返って、部長をまっすぐ見る。

「ゲームの電源を切ります。
 言っても聞いてくれなさそうなので」
「言ってるでしょ!
 今いいところなの!
 勢いがあるの!
 だから――」
「切りますね」
「待ってあと五分待って五分で終わるからここまで続いたのは初めてなの奇跡なのいいところなのだからもう少しやらせてこの奇跡を終わらせないで――」
「ダメです」
「あっ」

 はい、強制終了。
 これでゲーム終わり、良い子は寝る時間だ。
 部長はショックのあまり、その場に立ち尽くす
 
 僕だっていいところで中断される辛さは分かる。
 けれど徹夜はしないって約束を破ったのは部長の方なんだ。
 僕は悪くない。
 僕が責任転嫁している間も、部長は未だにモニターを見つめていた。

 なにも言わず、動かず数刻……
 やりすぎたかと思い始めた時のことだった。
 部長はゆっくりとその場に崩れ、床に倒れる

「部長!
 気をしっかり!」
 僕は倒れている部長を抱き起す。
 ちょっといい匂いがする……


 ってそんな場合じゃない。
 僕は部長の容態を見る。
 ピクリともしない
 さすがに刺激が強すぎたのか、死んでしまったのかもしれない。
 普通の人間はそんなことないけど、部長だったらありえる……
 そんな感じでパニクっていると、部長から寝息が聞こえ始めた。

 なんだ、寝ているだけか……
 びっくりした……

 僕は起こさないように(起きないと思うけど)、静かにソファーに運び横たわらせる。
 それにしても寝顔は可愛いな。
 さっきまで鬼気迫る表情でテトリスをやっていたが、絶対にこっちのほうがいい。
 なんども寝落ちした部長を見た僕が言うのだから間違いがない。

 けどちょっと憂鬱なのが、部長が起きた後の事。
 絶対に責められるよね、コレ……
 だって自己新記録を邪魔したもの……

 今までいろいろあったけど、今回こそ絶交を申し付けられるかもしれない。
 この楽しい関係を終わらせないでいられるよう、言い訳を考えないといけないな。

 僕は部長の可愛い寝顔を見ながらそう思うのだった

11/29/2024, 4:51:15 PM