Amane

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ブランコ

ギィ……ギィ……
残業がやっと終わりいつものように背を丸めて歩いていたとき、微かに錆びた鉄の擦れるような音がした。それは、小さな公園に近づくほど大きくなる。
ギィ……ギィ……
誰か遊んでいるのだろうか。でも、こんな時間に一体誰が?残業の疲れと、得体のしれない音への恐れを好奇心が僅かに上回った。息を殺すようにして公園に足を踏み入れた。
ギィ……ギィ……
何の変哲もない質素な公園で、ブランコだけが息をしていた。ひとりでに。
「ひっ。」
思わず漏れた声を掻き消すように勢いを増す揺れが恐怖を倍増させる。

「こんにちは。おじさん。」
後ろから声がした。声変わりもまだしていない少年のような声だった。
「だ、誰だ!?」
声がひっくり返ると同時に、足を踏み外して尻餅をついた。
「僕だよ。」
やはり声から想像されるような、かわいらしい少年だった。少年は、ブランコを指差していった。
「あれを動かしていたのは、僕だよ。」
「え?」
少年の言っていることを理解できなかった。ただ、少年があどけない笑顔を向けるので、先程までの恐怖は消えていた。気がついたら少年はいなくなっていて、ブランコも風で時折揺れるだけだった。


『……続いてのニュースです。〇〇市の✕✕公園で、8歳の男児が遺体で見つかりました。遺体は……』

2/1/2024, 10:30:29 AM