『風鈴の音』
その家には、南部鉄の風鈴が下がっていた。
夏も冬も関係なく、一年中軒先に吊るされて、無骨な見た目に似合わぬほどの澄んだ音を鳴らしていた。
私も近隣の住民もそれが当たり前で、うるさいだのなんだのと文句を言う人はいなかった。
台風の時だけは、けたたましく鳴る音に、紐が千切れてどこかへ飛んでいってしまうのではないかとハラハラしたが、翌朝になるとこちらの心配など素知らぬふうにまた音色を響かせているのだった。
ある日、風鈴の音がしないことに気がついた。
その頃には既に自然音のひとつとなっていたので、いつから聞こえなかったのかはっきりとしない。
ただ、回ってきた回覧板に、あの家で不幸があったことが知らされていた。
それ以降、その家は空き家となった。
他の荷物と一緒に、あの風鈴も外され持ち去られたようだった。
風鈴の音のしない夏が続いている。
たまに、チリンチリリンと澄んだ音が聴こえる気がするが、きっと幻聴だろう。
7/13/2025, 7:17:15 AM