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逆さま

笹かまぼこが好きだ、という共通点で私たちは仲良くなった。それまであまり話したことがなかったのだが、飲み会で隣の席になり、会話に困ってなぜか笹かまぼこの話題を持ち出したところ、私も好きなんです!と思いがけない反応が返ってきたのだ。
笹かまぼこを皮切りに私たちは次々に好きな食べ物をあげていった。ゴボ天、チーちく、つみれ。つまりは練り物が好きなのである。
向かいの席で私たちの様子をみていた後輩は、おふたりともずいぶんしぶい趣味なんですね、と口を挟んできたので、私たちは黙れくちばしの黄色い若者よ。などと調子にのってふざけてみたりしたのだった。実際のところ後輩とは2才しか違わないのだけれど。
そして私たちは当然のように次の日一緒に晩御飯を食べる約束をし、美味と名高いおでん屋に行きたらふく食べたのだった。そして嬉しくてその話を職場で吹聴しまわったのであった。

良い食事仲間が出来て良かったと思いながら日々を過ごしていたら、ある日同期がいかにも驚いた、というように右手をおでこにあてながら話しかけてきた。
君って笹かまぼこが好きってホント?
頷くと、同期は目を丸くして言った。
まさかさ、この会社で笹かまぼこ好きに会えるとは思わなかったな。俺も大好きなんだよ。

まさか、坂さままで笹かまぼこ好きだったとは。
同期内の憧れの的である坂さんとも仲良くなれそうな気配に動揺し、私は持ちあげた鞄がさかさまであることに気づかなかったのであった。

12/6/2023, 10:51:32 AM