これまでにそういう雰囲気になることは何度かあった。それでもなにもならないということは、つまりそういうことで。
そういうことであった、はずだった。
「どうして、今日に限って、あなたは。」
恨めしそうにこちらを見つめる彼の目は、普段と違う色を秘めていた。
ふーっと吐き出す息は熱量を持っている。思わず口元が歪に弧を描くと、彼は全てを察したように手で目を覆った。
あと、少し。
「今日に限って、じゃないよ。」
そっと顔に手を添えると、びくりを体を揺らした。怯えるような、恐るような態度に、愛おしさが溢れてくる。
「ねえ、顔を見せて?」
そっと手を重ね、頬擦りをする。一気に踏み込んだら、また逃げ出してしまうから。
だから、待つ。あなたが踏み出す、その一歩を。
お願い、だから、踏み出して、
【もう一歩だけ、】
8/26/2025, 9:29:03 AM