白い花が咲き狂うとき、私は恋をした。
甘く芳しい香りに誘われて、ただすれ違っただけの貴女に心を奪われた。どんな花の香りでも、熟れた果実の香りでさえ、貴女の魅力の足下にも及ばない。
蝶のように花の蜜に焦がれて、蜂のように拾い集める、そんな恋は初めてだった。
蜜蜂に驚き小さく声を上げた貴女の側に一目散に駆けつけた。よく見られたいだとか、特別に映りたいだとか、ちっぽけな願いより先に貴女を失うことを一番に恐れていたのだ。
その黒い瞳に私が映ったときの気持ちは、どんなに言葉を尽くしてもきっと伝わることはないだろう。
青い実のその先をただ恋焦がれていた。近くて遠い貴女との距離をどう縮めたことかと随分と思い悩んだ。隣を歩き、二言、三言、言葉を交わすことだけでも心の臓が跳ねて苦しくなる。
目尻を下げて、頬を染める貴女の表情に、どうしようもなく惹きつけられた。私ばかりずるいと、初めてそう思ったのだ。
朱に染まる実に、その頬に、触れずには居られなかった。額が触れ、芳しい香りをさらに深めて私を誘う。
互いの息が交わるその瞬間を、私は決して忘れはしない。
ヴェールのその下に貴女がいる、永遠に見惚れるような景色をただこの手で暴きたかった。どんな言葉も届かない場所へ、その心も視線も貴女の全てが私に向かっていればいいと仄暗い心持ちが首を出す。
その唇に触れると止まらなくなるとわかっていたから、ようやく手中に収まった実を間に挟んで堪えた。
驚きから転じて慈愛に満ち溢れたその瞳に幾度目かの恋心を募らせる。
ああ、私はどうしようもなく貴女に溺れているのです
林檎畑の真ん中で、ただ貴女にだけ愛を誓いましょう
【題:初恋の日】
5/8/2026, 9:30:58 AM