ユウキ

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ヨウヘイは今年で42歳になった。
そんな歳になったというのに、どうしても手放せない物がある。
子供の頃にプレゼントで買ってもらったトリケラトプスのぬいぐるみだ。
小学生の時に大好きだった恐竜の展示会に連れて行ってもらった。その時目にしたぬいぐるみがどうしても欲しくて、泣いて叫んで駄々を捏ねて買ってもらった記憶がある。
大きくなって、我ながらクソガキだったな、と思ってしまう程、あの時はどうしても欲しかったのだ。

あれから時間が経って、当時持っていた、大切だったものなんて捨ててしまったのに、このぬいぐるみだけは手放せないでいる。
自分でも気持ち悪いと分かっている。良い歳をした、結婚もしていない、中年のおっさんが、こんなものを後生大事な持っているなんて。
誰にも言えない秘密だった。

「落としましたよ。」
そう誰かにバレれば白い眼で見られ、悪態を吐かれる事であるのは分かっていた。
なのにバレた。
そう、今まさに目の前にいる、女性に。まだ若いだろう20代、いやもしかしたら10代、高校生かも。
ほんの出来心だったのだ。
昨今ぬいぐるみと一緒に写真を撮るという行為がある、というのを聞いて己もしてみたいだなんてトチ狂った考えを持ったのがいけなかったのだ。
綺麗に咲いた桜と一緒にトリケラトプスを撮りたいだなんて考えのは一体誰だ。自分だ。
「いや…。」
「えっ、今カバンから落としましたよね?」
完全に見られていた。
「あっ、すみません。」
顔から火が出そうだ。恥ずかしくて顔をまともに見ずに、差し出されたぬいぐるみを受け取った。
「いえ、気がつけて良かったです。」
「…ありがとう。」
お礼を伝えて、直ぐ立ち去ろうとした。
「良いですよね。トリケラトプス。私も好きです。」
「はい?」
「すみません、急に変な事言って。でもそのトリケラトプス、私も持ってるんです。」
「…大分古いものだから違うんじゃないでしょうか?」
「あ、私のは父から貰ったものなので、貰った時から大分くたびれてました。」
「そうですか…。」
「私のより凄く綺麗だったから、凄く大事にされてて良いなって思ってつい話しかけてしまいました。すみませんでした。」
女性は慌てたようにそう言って、失礼します、と背を向けた。

2024.12.24 「プレゼント」

12/23/2024, 3:23:47 PM