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3時のおやつ休憩中、ふと思い立って博士に質問をしてみた。

「博士って、誰よりもずっと努力してきたものとかありますか?」

私の質問に、丁度お饅頭を口に運ぼうとしていた博士の手が止まった。
暫し空中に視線を漂わせ、お饅頭を持っていない方の手を顎に添えている。

顎に手を添える仕草は、博士が考え事をしている時の癖だ。

一体どんな言葉が返ってくるだろうとワクワクしていると、博士と目があった。

「僕はそういう物はないかも。努力というより好奇心や興味で今まできちゃったから」
だから、本来の専攻と違うことを今しているのかもね、そう言うと博士は眉をハの字にしながら苦笑した。

「博士って人と比較するとかしたりしますか?」

研究の時には比較は大切だろうけど、人に対しても行っているのだろうか。
つい好奇心で聞いてみたが、
博士は淡々と「しないかな」と一言言ってお饅頭をパクリと食べた。


誰よりもずっと努力してきたもの。

君は面白い質問をするね。

誰よりも、ずっと努力してきたと僕は言えない。
君に語った通り、好奇心で今日まで来てしまったから。
それに、この世界は広い。
努力する人というのは数え切れないほど沢山いるだろうし、そもそも努力しなくても出来てしまう天才だっている。人それぞれ違うから、比較するのって難しいことだと思うな。

人との比較か。

人と比較して得られるものって、何だろうね?

物事に対して新しい視点は得られるかもしれない。
けれど、それが必ずしも自分に合うとは限らないとも僕は思っている。
物事のヒントは、対象から離れた意外なところにあったりするからね。
それを自力で見つけるのが、人生の目標の一つであり楽しみなのかもしれない。
少なくとも僕はそうかも。
だからこそ、広い視野で、自分の尺度だけで物事を見ないように気をつけているんだ。
なんて、説教臭いし恥ずかしいから君には言えないけれどね。

4/9/2024, 12:45:23 PM