晴川

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「行かないでよォ」

大学進学で県外に出る時、祖母に言われた。

「こっちの大学でもいいでしょ?外なんか行ってどうすんのさ、全く……。
本当は女の子が進学ってのも必要ないと思うんだけどねぇ」

はっきりと言ってきたのは祖母だけだったが、両親も心の内では思っていたらしく、

「しかも私立だもんねぇ」
「いつでも帰ってこいよ」

と言っていたが、知ったこっちゃないので県外に進学した。私立とはいえ特待生で国立よりもかなり学費は安くなったのだ。入学金は払ってもらったが、残りの学費は自力でなんとかする予定である。

それから大学生活を大いに楽しみ、そのまま都会で就職をし、それなりに良い生活を送っていた。

「それでさァ、もし結婚するってなったら彼氏の地元行こうかなって思ってるんだけど、綾はどう思う?」

大学時代に彼氏ができ、卒業後もなんとなく続いていた。当初の様な盛り上がりはなかったが、まぁこれからも一緒にいてもいいかなと思っている。

「えぇー、辞めときなよ。健太ん家の親面倒くさいよ?」

同じく大学時代にできた親友の綾が、彼氏と地元が同じということで少し相談をしていた。

「そうなの?」

「うん。絶対嫁いびりするタイプ。しかも健太長男じゃん?うちの地元の行事とかめんどいしさぁ、亜美じゃあついてけないって!」

「えぇ〜。婿入りにしてもらおっかな笑」

「いいんじゃない?あっち住むの無理あるって。それかさぁ、もう新しい彼探したら?もう恋愛って感じじゃないでしょ?」

「まぁ、うん。でもそういうのって恋が愛情に変わったって言うじゃん?家族的なさァ」

「長年一緒だから情があるだけじゃん?もっといい人いるかもよ?」

「そう言われるとなァ……。」

綾に言われるとそんな気もしてくる。嫌いじゃないからただ一緒にいるだけのような……。

「うーんとりあえず嫁入りは無しの方向で。結婚したとしてもこっち残ろうかな!」

「それがいいって!亜美にはこっちの方があってるし、まだまだあたしと遊べるじゃん!」

「それな!てか結婚しても全然綾と遊ぶし!!ってか遊ぶで思い出した!今度ここ綾と行きたいなーって思ってて……、」


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亜美が楽しそうに次の計画を話している。本当に良かった!亜美がどこかに行ってしまわなくて。

あの健太に彼氏ができた時はとても驚いた。あのいじめっ子。大学デビューして格好つけて。見た目だけの野郎。彼女はどんな趣味の悪い女かと思ったら、

亜美は、誰よりも、素敵な女の子だった。

それから4年間は夢のようだった。亜美に会う前の生活なんて思い出せないくらいだった。健太の野郎が彼氏だということだけが気に入らなかったけど。亜美は優しいから欠点だらけのあの野郎のことも寛大な心で許しているのだろう。それにあんなでも亜美の事を少しでも幸せのしているのならば邪魔してはいけない。だからずっと我慢していた。だけど、

『それでさァ、もし結婚するってなったら彼氏の地元行こうかなって思ってるんだけど、綾はどう思う?』

結婚!?あの男と!そしてここを離れる?あっちで生活をする??

無理だ無理だ無理だ!そこまではもう耐えられない!あいつのせいで亜美に会えなくなるなんて!

だから亜美を誘導した。事実だけを話して。あたしが亜美に嘘をつくなんてありえないので。

あいつの親は息子を甘やかし、いじめの事実が露見しても、最後まで認めなかった。謝罪の一つもよこさなかった。あいつらの家族になんてなったら亜美がどんな目に遭うのかわからない。

あの学校と地域も同じ穴のむじな。隠蔽体質だもの。あたしが知ってる以上の事なんかいくらでも出てくるだろう。

でもそんなことを知って優しい亜美が傷ついてはいけないので、たくさん言葉を飲み込んで、必要最低限だけを話した。


「あとさァ、ここ行きたいんだけど!ちょっと聞いてんの綾?」

「聞いてる聞いてる!飛行機の予約取ろうよ」

きっかけはもう作ってあるので、あの男とは近日中に別れさせる。絶対に亜美にはもっとふさわしい人がいる。だからそれまではあたしが亜美を幸せにする。亜美が結婚を望まないなら最期までずっと。だからね亜美、

「どこにも行かないで、ね。」

「えなに?」

「何でもないよー」

離れないで、側にいてくれればそれでいいから。

10/25/2024, 2:04:06 PM