WataAme

Open App

-ねぇねぇ、何の本読んでるの?

コンビニの弁当を食べ終えて机で本を読んでいると、艶のある長い黒髪を揺らしながら先輩が隣から覗き込んでくる。

-勝手に見ないでください。

そう言って僕は、どこにでもあるような茶色のハードカバーのついた手のひらサイズの本を閉じて机の上に置く。

-いいじゃん、タイトルぐらい教えてくれても。

口を尖らせて拗ねた表情をしながら、先輩が隣の同期の席に座る。

可愛い…少し年上なはずなのに、僕よりも若く見える横顔に心臓が少し跳ねるのが分かった。


-そこ、奥村の席ですよ。

先輩に言ってもどかないのは分かっているが、皮肉を言いたい気分になっていた。

僕が新卒で会社に入って、僕の教育係の先輩で、たくさんお世話になった人
いろんな相談を先輩にして、先輩に褒められたくてたくさん頑張った。

僕の恩人で僕が好きになった人…そして、座っている同期の奥さんだ。

隣の席に座り、長い髪を左手でクルクルと弄びながらイタズラっぽく先輩が笑う。

気づいてますか先輩?
この本、貴女から貰ったんですよ。

本のタイトルは

      「幸せは掴みとれ」

待っててくださいね先輩、もうすぐです

貴女がくれたこの本が僕に幸せの掴みかたを教えてくれました。

6/15/2023, 2:26:18 PM