雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―良いお年を―

「もうすぐね」
『うん…良いお年を』
「それ、30日までに使う挨拶よ?
あと5分しかないじゃない」
『まぁまぁ、細かいことは気にしちゃダメだよ』
「来年もよろしく、でしょ?
それと…良いお年を、だと、無責任だと思うわ」
『どうして?』
「あれって丁寧に言うと、
良いお年をお迎えください、だから、
個人個人で、勝手に良い年を迎えてね
って意味でしょ?
良いお年を迎えましょうの方が、
聞こえが良いと思わない?
お互いこれからも仲良くして、
助け合っていきましょう、みたいな意味で」
そんなこと、考えたこと無かった。
だって、良いお年を、なんて、
5年、10年の間にできた言葉じゃないし、
詳しくは知らないけど、
きっと昔からある言葉なんだから、
わざわざ疑問なんて持たない。
彼女はいつも、“世の中の当たり前”に首を傾げる。
“当たり前”に隠された不思議を、
見つけては逃さない。
『確かに…でも、それなら、
良いお年をつくっていきましょう
って言うな、僕は』
ふと出た言葉。でも、後から思えば響きもいいし、
なかなか良さそうな感じがする。
彼女は笑った。
「いいんじゃない、それ」
彼女は、右手をサムズアップの形にして、
にっこりと微笑んだ。
僕の好きな笑顔。
「つくるって表現が、言い得て妙ね」
僕らは笑った。
ある程度収まったところで、
ふとテレビに目をやると、
テレビの隅に表示された数字は…0:03
彼女も釣られてテレビに視線をやった。
『年、越しちゃったねw』
「ふふ、そうね
あけましておめでとう、今年もよろしく」
『こちらこそ
今年も良いお年をつくっていきましょう』
「2人で?」
『もちろん』

12/31/2022, 4:24:27 PM