君の奏でる音楽
「大好きです!」
その一言で、救われるものがあるのだと後に知ることとなる。
何気なく再生していた音楽リスト、聞き慣れた馴染みの曲が流れる中、誤操作でまったく知らない曲を再生してしまった。
戻ろうか、と指を動かそうとして、耳に入ってきたその音楽が思わず動きを止めさせる。
美しく繊細なのに、どこか力強くて。気がついたら、曲を聞き入るように聞いていた。
最後の一音が鳴り響き、曲は終わる。無意識にコメント欄を開いて、そのとき初めて気がついた。
何日も前に投稿されているのに、再生数は少なくて、コメントもひとつもなかった。まだ誰も見つけていないような宝物を見つけたような気持ちともっと知られてもいいのに、という気持ちが混在する。
好きだという気持ちを込めて、文字を書いては消して、書いては消してを繰り返した。結局、送れた文字はたったの六文字。それでも、六文字以上の想いを込めて、送信ボタンを押した。
それがきっかけで、その人の曲をよく聞くようになった。いつしか、その人は有名になり、今では世界中にファンがいるほどだった。
とあるインタビューで、活動を続けるきっかけを聞かれ、その人はこう答えた。
「初めてもらった、たった六文字のコメント。それが僕が音楽を奏で続ける理由です」
8/12/2023, 3:01:30 PM