海月 時

Open App

「宝物、か。」
今の俺は、何が大事なのだろう。

「貴方は本当に、泣き虫ね。」
昔から母は呆れながら、俺に言った。事あるごとに泣き出す俺は、母を困らせてばかりだったと思う。今でも泣く事はある。でもそれは、家族の居ない所でだけだ。だって、家族の前で泣いてしまうと、自分の無能さを痛感してしまうから。

「君は本当に、真面目で良い子だね。」
昔から学校では、良い子を演じた。教師に歯向かわず、只静かに話を聞く。そんな都合の良い子をだ。しかし、よく考えてしまう。こんな偽りだらけの自分は、醜悪だと。それでも演じる。だって、自分の本心を曝け出して、否定されたら立ち直れなくなるから。

宝物、大事にしたいもの、大事にしないといけないもの。そんなの今の俺には、ない。でも、少しだけ思ってしまう。泣き虫な自分、弱虫な自分、嘘つきな自分。そんな人間の悪い所を集めた様な俺を、誰でもいいから大事にして欲しい。愛して欲しい。でも、そんな都合の良い話がある訳もなく。只、いつものように、大丈夫なように、見栄を張る。

きっと大事なものなんて、この世にない。それでも良い。虚像に侵っても良いだろ。それは俺が俺自身を、大事にするのに必要ならば、俺は虚像を大事にしたい。

9/20/2024, 2:30:04 PM