ピュウ。わたしの耳が音を拾う。
もはや冬ではないのか、と思うほど冷たい木枯らしが、わたしの頬も鼻も耳も全部撫でて、過ぎ去っていく。
「もうそんな季節かぁ」
両手を擦り合わせて摩擦熱を起こしながら、わたしは校舎裏を覗いた。
「いたいた」
金髪、ピアス、煙草。おおよそ学校には似つかわしくない若い用務員さん。わたしは密かに番長と呼んでいる。
「ゲ、見つかった」
「焚き火してるー」
「誰にも言うなよ?」
「それ言ってほしいやつ?」
笑いながら番長に近寄れば、彼は違う、と首を振った。
「バレたら俺がクビになるし、お前も共犯で名前出すから、まあ謹慎になるだろ」
「うっわ、最悪。じゃあ言わない」
しゃがんで焚き火にあたる。番長は、ん、とだけ返して、横に置いていたトングを焚き火に突っ込んだ。
まさか。
「やきいも……作ってる?」
「そう。食うか?」
「食べる」
ガサガサ。焚き火の中から、焦げたアルミホイルが出てくる。それがわたしの足下に置かれる。
「熱いから冷ましてからな」
「はーい」
なんだかんだ言って、面倒を見てくれるあたり、番長は優しい。
「もういい?」
「ん」
アルミホイルを取って、やきいもを半分に割る。甘いいもの匂い。湯気が焚き火の煙に混ざって消えていく。
「はい」
半分を番長の口元に持っていけば、少しだけ視線をさ迷わせた後かぶりついた。
「んま」
「ね」
やきいもを食べながら、立ちのぼる煙を目で追う。ピュウ。音がまた鳴ったけれど、寒さは感じなかった。
この人といる時は、木枯らしなんてへっちゃらだから不思議だ。
1/17/2024, 1:01:03 PM