空を掴むふりをして水平線をなぞる。もう何百回もそれを繰り返した気がする。微かに足跡が残った砂浜、遥か遠くに霞む海鳥、空は藍色に半透明を被せたような、そんな色をしていた。
何もしたくなくて、でも何かしないと溺れてしまう。そんな日々を生きてきた。私の人生は、常に正体不明の怪物からの逃亡劇の連続だった。特別凄惨な出来事を経験した訳では無いし、人と比べて不幸な訳でも無いのだと思う。それでも、逃げ続けるだけの毎日はやはり苦痛で、息継ぎをするように、何時しか時折この砂浜に逃げるようになっていた。逃亡の檻さえ耐えられず、逃亡しようとするなんて、私の心の薄っぺらさには、はたはた困惑する。でも、海辺でなら息が出来ることも確かであり、私はこの事実をただ受け入れた。海辺でただ呼吸をする時間は、とても心地よかった。波のごうと鳴く音に乗って、束の間の自由を手にした気分になった。白い砂浜を歩いていたあの時は、確かに幸せだった。
こうして無意味で最高の逃亡を今も続けている。私が佇む間、波は荒々しく、力強く私を見ている。水平線をなぞりながら、少し時間が経って、ここに良い月が浮かぶ絵を想像した。底なしの寂寥感に、私は思わず笑ってしまった。今夜は、良い月が見られそうだ。
意味がないこと
11/8/2022, 1:30:52 PM